黒木町研修日記2【ながせ】

denjisou2007-05-10


朝5時に目が覚める。
そんなに早起きする必要もなかったが、なぜか出先では早起きする習性があるらしい。
ばあちゃん家、旅館、友達の家etc。その日への期待や不安がそうさせるのかも知れない。
今日から本格的な研修開始。今日のメニューは、お茶摘み。


椿原家の所有する茶畑に軽トラで移動。荷台にはアーチを描く緑色した“お茶刈マシーン”が積まれている。
このお茶刈マシーン、2枚の歯が平行に動いて茶葉を刈り、歯の上部に取り付けられた送風ノズルの力で袋に茶葉を回収する。
使い方はいたってシンプルで、お茶の畝に対して両側からそのマシーンを支え、もう1人が袋を支持する。
そして袋がいっぱいになると(およそ1畝の片側が刈り取れる程度)袋を交換し、逆側を刈っていく。


さて、研修1日目の自分に与えられた仕事は「袋の運搬」。
空の袋を何十本とある畝に置き、茶葉で満タンになった袋を回収し、こぼれないよう軽トラに搭載する。
その繰り返しだ。いたって簡単である。ただ…書くだけなら。
満タンになった茶袋の重さは、計算したところざっと12kg。
それを肩に担いで刈り取り班に遅れないように、畝の間を全力疾走する。まさに、必死のサンタ状態だ。


何十回と畝の間を往復した。
遠くからは「お〜い長瀬く〜ん。たまっとるよ〜」のお声。
そんな中で考えさせられることがたくさんあった。それをまとめておきたい。


まず、農業の機械化のことについて。
日本の農業も多くの作業に機械が導入されてきた。
田起しの役目は牛からトラクターに変わり、稲の刈り取りも鎌からコンバインに変わった。
去年手伝いにいった朝倉市の大規模農家では、稲の苗床作りから播種までをベルトコンベア上で行なう機械を導入していた。
これからもどんどん機械化は進んでいくだろう。
農業人は腰の痛みや泥まみれになる苦労から開放され、生産効率のアップにも大きく貢献してきた。
でも、すべてを機械に任せればいい日なんて到底やってこないのだと思った。
10本指の大型田植え機も、出入り口周辺は最後に手植えをしてやらなくてはいけない。
先のベルトコンベアも、出てきた苗床を積み重ね、種や泥をセットするのは人間である。
その点で農業の世界はベテランやその知恵がどうしても必要なのだ。
種のベストの保水状態を見極められる目、茶葉の最高の蒸し状態を嗅ぎ分けられる鼻、そんなものが今日本の農業の世界から失われようとしている。
いや、もう損失は当の昔から始まっているのかもしれない。
欧米式に大圃場の整備を進め、大規模農業集団を作ったときに、その土地の力を活かしきれる人智は果たして残っているのだろうか。


二つ目に、生きものたちの生命力について。
お茶の刈り取りをする前には、畝を歩いて茶葉の間から生える蔦(カズラ)を抜き取らなくてはならない。
その作業をする間にもいろいろな生物と出くわした。トカゲやクモや、てんとう虫や名前も知らない昆虫。タケノコも生えていた。
ここまでお茶が優先する環境下で生きものたちはたくましく生きている。
その中でも生命力に驚かされたのはクモたちだ。


畝を歩いてカズラを回収し、オチャッパサンタが完全に畝の間のクモの巣を破壊しても、10分少々でかれらは自分の巣をある程度再生させている。
そこが生きやすいのか、はたまたそこしか生きる場所がないのかは知らない。
でも、自分の生きる場所を「ここ!!」と決めて、なんどもなんども巣を再生させる姿に、ちょっとだけ感動してしまったのだった。