臨時星の棚田劇場


石積み前編


始まりは、まだ朝露濡れるかまぼこ型の茶畑の小道。
その道をぬけると棚田の中ごろに出た。
その段をしばし歩くと3人の初老の男がみえた。
作業はすでに始まっている。
棚田の石積みは、以外にも崩すことからはじまる。
もう二度と崩れないように土台から積み直す。
三人の無駄のない分業に手を入れる隙間はなかった。
手持ち無沙汰の私は、森からぽつぽつ飛び出す鶯の鳴を聞いていた。
すると、近くでも小気味いいリズムが聞こえてきた。
棚に残る大きな石を割っている音だ。
矢と羽と呼ばれる杭を石に打ち込んで割っていく。
打ち込んだ杭ごとに打った音色が違っていた。
音色が鈍くなったとき、その大きな石は割れていく。
棚田のある谷に響くこの音は何の違和感もなく山々に吸い込まれていくのを感じた。
日も高くなり、軽トラックの荷台で星野の風を感じながら昼食に向かった。



石積み後編

始まりは、詩吟。
三人のうちの一人、山科氏が星野を詠った。
前半分しか聞くことはできなかったが、星野の風情、誇りが漂っていくのを感じた。
澄みきった青空に飛びたてるかのような星野の棚田。
私たちは午前の手持ち無沙汰のもやもやをかき消すように加勢した。
三人に指示を仰ぎながら石を運ぶ。
監督:山科
演出:しゃちょう
出演:学生
主演:石
『棚田石積み物語』の始まりだった。
私は助演男優賞を目指して石を監督の指示通り引き立てる役に徹した。
出演各人が立派な物語を作り上げていった。
日がやや傾きかけた頃、クランクアップ。


手を加える余地さえなかった前編から、手を入れる隙間のないくらいぴしゃりと石を積んだ後編へ。鶯色の新芽が美しい星野の棚田で作った思い出は、積んだ石の重みにも増して揺るがないものになった。私が積んだ「たにのき石」が時の流れとともに苔むしていくことを想いながら、春風そよぐ棚田を下っていった。


*** 星野の棚田のイメージを膨らませてもらえたらうれしいです。ホーホケキョ! ***
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明日は『土曜町劇場』です。お楽しみに!
【たにのき】